DV(ドメスティック・バイオレンス)から離婚する場合、最優先すべきは安全の確保です。離婚交渉のセオリーが「冷静な話し合い」であっても、DV事案では順序が変わります——身の安全→保護命令→離婚交渉、の順で進めるのが鉄則です。
DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)に基づく保護命令は、加害者に法的拘束力を持って接近禁止・退去命令を出す制度で、警察の関与も得られます。
この記事では、DV被害者が安全に離婚を進める手順、保護命令、DV慰謝料、住所秘匿、調停運用まで、実務目線で完全解説します。
DVとは|身体的暴力以外も法的保護の対象
DV防止法(2001年施行・2014年改正)は、配偶者からの暴力を身体的暴力に限定せず、広く保護の対象としています。
DVの4類型
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 身体的暴力 | 殴る・蹴る・物を投げつける・突き飛ばす |
| 精神的暴力 | 暴言・侮辱・人格否定・無視・脅迫 |
| 経済的暴力 | 生活費を渡さない・働かせない・お金を取り上げる |
| 性的暴力 | 望まない性行為・避妊しない・性的写真の強要 |
保護命令の対象
DV防止法の保護命令は、原則として身体的暴力または生命・身体への脅迫が対象です(DV防止法10条)。精神的・経済的暴力は単独では保護命令の対象外ですが、慰謝料請求・離婚原因としては明確に認められます。
2024年4月施行の改正DV防止法で、精神的DVも一定の場合に保護命令の対象に含まれるよう拡大されました(生命・身体への加害が予測される程度の精神的脅迫等)。
「同居」が要件ではない
DV防止法の保護対象は配偶者だけでなく、事実婚・同棲・元配偶者にも及びます(DV防止法28条の2)。離婚後に元配偶者からつきまとわれる場合も、保護命令を申立てられます。
子・親族への保護も可能
加害者が被害者の子・親族に危害を加える可能性がある場合、子や親族への接近禁止命令も同時に申立てできます。
安全確保の最優先事項|避難・相談先
身体的暴力がある場合、まず加害者から物理的に離れることが最優先です。離婚交渉や慰謝料は、安全な場所からでないと冷静に進められません。
緊急時の連絡先
| 相談先 | 役割 |
|---|---|
| 警察 110番 | 身体への危険があるとき |
| DV相談ナビ #8008 | 24時間対応・最寄りの相談機関に接続 |
| 配偶者暴力相談支援センター | 各都道府県に設置・避難先紹介・各種手続支援 |
| 女性相談センター | 一時保護・自立支援 |
シェルター(一時保護施設)
配偶者暴力相談支援センターを通じて、民間シェルターまたは婦人相談所で一時保護されます。
- 期間:通常2週間〜1ヶ月
- 費用:原則無料
- 場所:機密扱い(加害者には絶対に伝わらない)
- 子と一緒に避難可能
- 携帯電話の使用制限あり(GPS追跡防止)
避難前に持ち出すべきもの
- 健康保険証・マイナンバーカード
- 預金通帳・印鑑(できれば)
- 携帯電話と充電器(GPSに注意)
- 衣類・薬・現金
- 子の母子手帳・在園/在校証明書
- 加害者の暴力を示す証拠のコピー(原本は別途保管)
時間がない場合は身一つで避難し、後から弁護士・行政の支援で整理します。
警察への被害相談
警察に相談すれば、その記録が残ります。後の保護命令申立てや慰謝料請求の重要な証拠になるため、暴力があった都度110番または最寄りの警察署で被害申告するのが望ましいです。
「家庭内のことだから民事不介入」と言われた場合でも、生活安全課の相談窓口で記録を残してもらいましょう。
保護命令の申立て|接近禁止・退去命令
保護命令は地方裁判所に申立てる手続きで、加害者に法的拘束力のある命令を出してもらえます(DV防止法10条以下)。違反すると1年以下の懲役または100万円以下の罰金(DV防止法29条)。
保護命令の3種類
| 種類 | 内容 | 期間 |
|---|---|---|
| 接近禁止命令 | 被害者の身辺へのつきまといを禁止 | 6ヶ月(再発令可) |
| 退去命令 | 加害者を共同住居から退去させる | 2ヶ月 |
| 電話等禁止命令 | 電話・メール・SNS・つきまとい等を禁止 | 6ヶ月 |
申立てに必要な書類
- 保護命令申立書
- 配偶者暴力相談支援センターでの相談記録
- 警察への相談記録
- 怪我の写真・診断書
- 暴言の録音・LINE
- 申立人の戸籍謄本・住民票
申立てから発令までの流れ
- 申立て:被害者の住所地または加害者の住所地の地方裁判所
- 審尋:加害者の意見を聴取(口頭弁論不要)
- 発令:通常は申立てから1〜2週間
緊急性が高い場合は、申立て後数日以内に発令されることもあります。
申立て費用
- 申立手数料:1,000円
- 郵券:6,000円程度
- 弁護士費用:5〜20万円が目安
申立てには証拠が必要ですが、弁護士なら警察・センターと連携して短期間で揃えられます。
違反したらどうなるか
加害者が保護命令に違反すると、犯罪として処罰されます。被害者は警察に通報し、警察が逮捕する可能性があります。これがDVの抑止に強く効きます。
DV慰謝料の相場|50万〜500万円
DV事案の慰謝料は50万〜500万円と幅広く、暴力の程度・期間・被害の重大性で大きく変動します。
相場のレンジ
| パターン | 相場 |
|---|---|
| 軽度のDV(短期間) | 50万〜100万円 |
| 継続的な身体的暴力 | 100万〜300万円 |
| 重度の身体的暴力(怪我・入院) | 300万〜500万円 |
| DV+不倫の併発 | 500万円超も可能 |
増額要素
- 怪我の程度:診断書に記載された傷害の程度
- 暴力の頻度:日常的か単発か
- 婚姻期間:長いほど加重
- 子への影響:子の前での暴力、子への暴力
- 被害の長期化:PTSD、うつ病、入院・休職
高額判決の参考ケース
- 東京地裁H21.10.27判決:DVと不貞の併発で500万円
- 東京地裁H15.7.15判決:継続的なDV・怪我あり300万円
- 東京地裁H18.8.10判決:暴言・暴力の組み合わせで250万円
立証に必要な証拠
| 証拠 | 証明力 |
|---|---|
| 医師の診断書 | ◎(怪我の程度・原因が明確) |
| 怪我の写真(日付入り) | ◎ |
| 警察の被害届・110番履歴 | ◎ |
| 配偶者暴力相談支援センターの相談記録 | ◎ |
| 暴力時の録音・動画 | ◎ |
| シェルター利用記録 | ○ |
| 暴言のLINE・メール | ○ |
「言った言わない」では弱く、客観的記録が決定的です。怪我があったらすぐに医師の診察を受け、診断書を取得しましょう。
子の前での暴力(面前DV)
近年、子の前での配偶者への暴力は子に対する心理的虐待にあたるとされ(児童福祉法)、追加の慰謝料・親権判断のマイナス要素として評価されます。
DV離婚での親権・養育費の戦略
DV事案では、通常の離婚ケースと比べて親権・面会交流・養育費の判断が変わります。
親権がほぼ確実に取れる
DV加害者は子に対する虐待リスクが高いと評価されるため、親権争いでは被害配偶者が圧倒的に有利です。さらに:
- 「フレンドリーペアレント原則」(面会交流に協力的なほど親権獲得有利)の例外として、面会拒否が許される
- 子が加害者を恐れている場合、子の意思も決定的
面会交流は制限・不実施が原則
通常の離婚なら面会交流は子の権利として原則実施されますが、DV事案では:
- 面会交流の不実施が認められる
- 実施する場合も第三者立会型・オンライン型などの間接交流
- 児童相談所・面会交流支援団体の関与
養育費は通常通り請求
親権の有無にかかわらず、養育費の請求はできます。DV加害者でも実親としての扶養義務はあるため、新算定表ベースで請求します。詳細は養育費の相場と計算方法を参照してください。
慰謝料の上乗せ請求
DV事案では、離婚慰謝料・離婚原因慰謝料に加えて、個別の暴行ごとの慰謝料を別途請求することも理論上可能ですが、実務的には一括して「DVを原因とする離婚慰謝料」として請求するのが主流です。
強制執行への備え
DV加害者は支払いを渋ることが多いため、公正証書(執行認諾文言付き)化または判決取得で強制執行できる状態にすることが必須です。給与・預金の差押えで実際に回収できる体制を整えます。
加害者と顔を合わせない離婚調停の運用
DV事案では、加害者と接触せずに離婚交渉を進める仕組みが整備されています。
住所秘匿措置
避難先住所が加害者に漏れないよう、次の3つの保護を組み合わせます。
- 住民基本台帳事務における支援措置:加害者の住民票閲覧を制限(市町村窓口で申請)
- DV防止法に基づく住所閲覧制限:戸籍附票・住民票の写し交付制限
- 裁判書類における住所秘匿:裁判所で住所欄を「弁護士事務所気付」とする運用
調停期日の運用
家庭裁判所では、DV事案を申し出れば次の対応を取ってもらえます。
- 当事者を完全に別々の入退室時刻で呼ぶ
- 調停室・待合室を離れたフロアにする
- 帰宅時の同行を警備員が行う場合もあり
- 加害者には弁護士のみが対応し、被害者は出席しない方法も検討
Web会議による調停
近年はWeb会議による調停が広がっており、被害者が裁判所に足を運ばずに自宅・弁護士事務所から参加できる運用が拡大しています。
弁護士事務所気付の通知
家裁・相手方からの郵便物は、自宅ではなく弁護士事務所気付に届くようにします。これで自宅住所が相手方に明らかになるリスクをほぼゼロにできます。
子の住所秘匿
子も同じく、保育園・学校で住所秘匿の手続が可能です。学校・保育園と事前に連絡を取り、加害者からの問い合わせには「教えられない」と対応してもらう体制を整えます。
公的支援制度の活用|法テラス・自治体支援
DV被害者には、経済的に厳しい状況でも離婚・自立を進められる公的支援が整備されています。
法テラスの民事法律扶助
弁護士費用を立て替え、月5,000〜10,000円の分割返済が可能。DV事案では収入要件が緩和されるケースもあります。
- 法律相談:30分まで無料(3回まで)
- 弁護士費用立替:着手金・実費を立替
- 分割返済:月5,000〜10,000円
児童扶養手当
ひとり親世帯の主たる支援。所得に応じて月額約4万〜10万円(子の人数・年齢で変動)。
母子父子寡婦福祉資金貸付金
各都道府県で実施。事業開始資金・修学資金・住宅資金などを無利子で借りられる制度。
自治体の家賃補助・引越し支援
自治体によって、DV被害者向けの家賃補助・引越し費用支援・生活資金援助があります。お住まいの自治体のひとり親家庭支援課に相談してください。
生活保護
経済的に困窮している場合は生活保護も選択肢です。DV被害者は別世帯として認定されやすく、加害者の収入は計算に含まれません。
緊急雇用相談
ハローワークではマザーズハローワークなどひとり親向けの就労支援を実施。職業訓練・資格取得支援も受けられます。
DV離婚に関するよくある質問
Q1. 警察に相談しても「夫婦の問題」と取り合ってもらえません。
A. 民事不介入を理由に対応を渋る警察官もいますが、現在は警察庁の方針としてDV相談には積極対応することになっています。生活安全課・刑事課に相談、または配偶者暴力相談支援センターを通じて警察に再度の対応を求めることが可能です。相談記録を残すことが最重要なので、必ず書面化してもらってください。
Q2. 離婚を切り出すと暴力がエスカレートしそうで怖いです。
A. その心配は的中しやすく、DV加害者が離婚を察知したときに最も危険になります。先に避難してから離婚を切り出す順序が鉄則です。シェルターまたは実家・友人宅に避難してから、弁護士を通じて離婚協議を進めるか、調停を申立てます。
Q3. 子と一緒に避難したいですが、連れ去り扱いになりませんか?
A. 同居中の子を母(または父)が連れて避難することは、原則として連れ去り扱いになりません。むしろDV事案では子の安全のために必要な行動です。ただし、暴力的に強奪する形では問題になり得るため、事前に弁護士に相談するのが安全です。
Q4. DVの慰謝料はどのくらい取れますか?
A. 50万〜500万円が幅です。怪我の程度・暴力の頻度・期間・婚姻期間・子の有無で大きく変動します。具体的な金額は事案により異なるため、証拠を整理して弁護士に相談するのが最初の一歩です。
Q5. 加害者が反省していると言って戻るよう求めてきました。
A. DVには「サイクル理論」(緊張期→爆発期→ハネムーン期)があり、加害者が反省して優しくなる時期は次の暴力の前段階です。一度避難したら戻らないのが鉄則です。「反省」を信じて戻る選択は、被害が拡大するリスクが極めて高いため、信頼できる支援者・弁護士と相談してください。
Q6. 離婚届に判を押してくれません。
A. 協議離婚に応じない場合、離婚調停 → 離婚訴訟で離婚を成立させます。DV事案は法定離婚事由(民法770条1項5号「婚姻を継続し難い重大な事由」)に該当しやすいので、訴訟まで進めば離婚は認められます。
Q7. 加害者が保護命令を無視してきます。
A. 即座に警察に通報してください。保護命令違反は犯罪(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)で、警察が逮捕する権限があります。違反のたびに記録を残せば、再発令時にも有利な材料になります。
Q8. 子も加害者に脅されているのですが、どう保護しますか?
A. 保護命令の申立てで子への接近禁止命令を併せて取得できます。子が学校・保育園に通っている場合、施設にも事前に連絡して加害者の引き取りを拒否する体制を整えます。児童相談所への通告も並行して進めることがあります。
まとめ|DV離婚は「安全」「証拠」「公的支援」の3本柱
DV離婚で押さえるべきポイントは次の5つです。
- 最優先は身の安全。シェルター避難、警察相談から始める
- 保護命令で接近禁止・退去命令を取得し、警察の関与を確保
- 証拠は早期に:診断書、警察記録、センター相談記録
- 住所秘匿措置で加害者から避難先を守る
- 公的支援を活用:法テラス、児童扶養手当、自治体支援
DV事案は、通常の離婚と比べて安全確保の優先順位が圧倒的に高い分野です。一人で抱え込まず、まず配偶者暴力相談支援センター(DV相談ナビ #8008)または警察に相談してください。弁護士は安全確保ができた後の段階で、保護命令・離婚交渉・慰謝料・親権など全工程の戦略をサポートします。
DV被害者が弁護士を選ぶ際は、女性弁護士の在籍・オンライン相談対応・安全配慮(加害者への秘密保持)の3点を確認すると安心です。証拠収集から保護命令申立て、離婚調停、慰謝料請求、親権・養育費交渉まで一気通貫でサポートできる事務所を選びましょう。
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